怖いと恐いの意味の違い
”こわい”を漢字で書く場合「怖い」と「恐い」の使い分けに迷うことはありませんか?「恐怖」という熟語も非常によく用いられますし「恐」と「怖」はどちらも目にする機会の多い漢字です。
しかしふたつの表現の意味や使い方の違いや英語表現の使い分けを正しく説明できる人は少ないのではないでしょうか。
この記事では「怖い」と「恐い」の意味や使い方の違いを解説し、「恐い」と似た「恐ろしい」との使い分け方をご説明します。さらに英語で「こわい」感情をを表現するバリエーションもご紹介しますので、日常のコミュニケーションで「こわい」を伝える時どんなことに気をつければいいかがよくわかる内容になっています。
怖いは常用漢字・恐いは常用外
実は現代の日本社会に「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」になる漢字の使い方を定めた”常用漢字表”があるのをご存知ですか?ビジネスなどオフィシャルな場で漢字の使い方に迷ったときは、常用漢字表に記載されている使い方を採用しましょう。
そもそも常用漢字とは?
常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)とは文化庁が定めている漢字の使い方の表で、インターネットに限らずメディアや官公庁、学校などで使用される漢字の使い方の基準となっています。逆の表現をすると常用漢字表に書いていない使い方は、公式の書類や大学入試などにふさわしくない使い方とされているのです。
常用漢字表で「こわい」という読みが当てはめられているのは「怖い」だけ。「恐い」は常用漢字表に記載がありません。ただし「恐」の字は「恐れる」「恐ろしい」という使い方で常用漢字表に入っています。
注意するポイントは、”公的な文書や入学試験などでは「怖い」が正解で「恐い」は間違い”ということです。「恐い」も辞書に載っている表現なので日本語としては正しいのですが、公式には「こわい」=「怖い」を使おうというルールがあるのです。
意味は同じだが主観的か客観的かが違う場合がある
「怖い」と「恐い」の意味を検索してみると、”意味は同じだが主観的か客観的かが違う”という検索結果が表示されることがあります。どのような意味の違いがあるのか気になったので調べました。
「こわい」には「おそろしい・悪い結末が予想されるため近寄りたくない」「人間の知力では測り知れない力がある」などの意味があり、ほとんどの場合【怖い・恐い】の両方の漢字が「こわい」の項目に併記されています。
このように「怖い」と「恐い」の意味に違いはありませんでした。ただしこれが「怖い」と「恐ろしい」になると違います。「彼女の恐ろしい考えを知って、怖くなった」というときの「恐ろしい」は、「怖い」より客観的に対象の危険性を表す言葉で、ふたつの言葉を入れ替えて使うと不自然な文章になります。
インターネット上だけの使い分けという説もある
インターネット上では使い分けられているという説も散見されます。インターネット上でNHK_PR、朝日新聞デジタル、ハフポストのページを調査したところ、NHK_PRと朝日新聞デジタルでは「怖い」が、ハフポストでは「こわい」が使用され、「恐い」は発見できませんでした。
たとえばハフポストにでてくる「こわい」はすべて「こわい」になっていて「怖い」の記載はありませんでした。このように、各メディアの中の用語の使い方は統一されています。
日本の主な報道機関は、日本新聞協会が発行する『新聞用語集』(新聞用語懇談会編)に掲載される新聞常用漢字表に基いて各社で漢字使用の基準を定めています。インターネット上だけで使い分けられているのではなく、メディアごとに使用する用語が統一されているというのが正確な表現です。
怖いと恐いの漢字の違い
「怖い」と「恐い」の意味が同じであること、そしてふたつの言葉の使い分けについてはご理解いただけたかと思います。では「怖」と「恐」のそれぞれの漢字にはどのような違いがあるのでしょうか。違いをわかりやすくするために、いくつか例文を挙げながら詳しく解説します。
怖の意味
「怖」には「おそれる」「おそれわななく」「おどかす」などの意味があります。このように「怖」には個人的に何かをおそれる・こわがるといった意味があるのです。一般的な「こわい」と感じる感情を表現するのに適した字だといえるでしょう。これに対して「恐」の意味はどのようなものでしょうか。
恐の意味
「恐」には「おそれる」以外にも「こわがる」、「つつしむ」、「気づかう」といったものがあります。 また「おびやかす」や「おそろしい」といった怖れの感情以外の意味も含まれている漢字です。
「恐」は相手を怖れるあまり自分の行動を制限してしまう意味合いがある点が「怖」との違いです。つまり、純粋に「こわい」という感情を表現する漢字は「怖」であって、対象を怖がるあまりに相手に気を遣ってしまう状態を表すのが「恐」であるところがふたつの漢字の意味の違いです。
怖いと恐いの使い分けと例文
ここからは「怖い」と「恐い」の違いを例文を使って解説します。「恐」の字も実は常用漢字表に登場しているのですが、「こわい」ではなく「恐れる」「恐ろしい」という言葉で記載されています。この記事の冒頭でご説明したとおり「怖い」と「恐い」の意味は同じです。使い分けには何かルールがあるのでしょうか。
使い分けに明確なルールはない
「怖い」と「恐い」の日本語としての使い分けに明確なルールはありません。辞書で調べると「こわい」の項目にの両方が併記されています。しかし「恐い」ではなく「恐ろしい」になると状況が変わりますので、「怖い」と「恐い」そして「恐ろしい」を含めた例をご紹介します。
怖いの例文
例えば「怖いけど、自分が行かなきゃ」という言い回しでは「こわい」という感情が「怖い」を使って適切に表現されています。
他に「怖い」の有名な例を挙げるとすれば『ほんとにあった怖い話』という番組名ではないでしょうか。「怖い」は「私はおばけが怖いです」など、自分が何かを怖れている感情を表現する言葉です。メディアによっては「こわい」とひらがな表記で統一しているところもあります。
恐いの例文
「夜ほど恐いもの、厭なものは無い」(永井荷風 「狐」より)、「この養生園には恐い奥様がいるぞや。」(島崎藤村「ある女の生涯」より)などのように、文豪たちの作品にも「恐い」が登場しています。
先ほどの例でも明らかですが、「恐い」は「怖い」と同じ意味で使われているため「恐い」に特有の使い方はありません。
また「恐い」は常用漢字表に記載されていない表現だとはいえ、文豪たちが使い私たちも日常的に使っている言葉です。日本語として間違っているわけではなく、ただオフィシャルな場面では「こわい」=「怖い」と書きましょうというルールが常用漢字表というかたちで存在するだけです。
「怖い」「恐い」「恐ろしい」の使い分けについて
「怖い」と「恐い」や「恐ろしい」をどう使い分ければいいのでしょうか。「私はおばけがこわい」と言うとき、「怖い」と「恐い」どちらの漢字を使っても間違っていません。ただし「私はおばけが恐ろしい」とは言わないはずです。「怖い」は自分の「こわい」という感情を表現するのに適した言葉だといえます。
次に「恐ろしい原発事故」と「怖い原発事故」という表現を比べてみます。どちらも意味は通りますが、「怖い原発事故」という表現は話し言葉やSNS上で用いられることはあってもマスメディアの見出しに使われることはないでしょう。
「恐ろしい」は大多数の人にとって共通して「こわい」という感情を引き起こすものに使われます。ですから新聞等で広く情報を提供する場合には「恐ろしい原発事故」という表現になるわけです。
使い分けに迷ったら「怖い」が適切
「怖い」と「恐い」の使い分けに迷ったら、「怖い」を使いましょう。「恐い」も辞書に載っている言葉ですし日本語として誤っているわけではありません。しかし「恐い」は公文書や入学試験の答案などには書かないようにしてください。あくまでも「怖い」が公式には正しい表現です。
常用漢字である「怖い」は使いやすい
再確認になりますが、文化庁が定める常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)で「こわい」という読みが当てはめられているのは「怖い」だけです。つまり、インターネットに限らずメディアや官公庁、学校などで使用される漢字の使い方として正しいのは「こわい」=「怖い」なので、「恐い」は入学試験の答案用紙や公的文書には書かないようにしましょう。
「怖い」は使いやすい表現です。私たちが日常生活で「こわい」を使うとき、迷ったら「怖い」と書いておけば間違いありません。あえて「恐い」を使うとすれば、SNSや著作物など明らかに個人的な発信の場合なら問題ないでしょう。
ここまでは日本語で「こわい」という感情を表現する場合について説明してきましたが、英語の場合はどんな表現を使い分ければよいのでしょうか。次の項目で例文を挙げつつご説明します。
怖いの英語表現
日本語の「怖い」に対応する英語の表現にはさまざまなものがあります。この記事ではよく用いられる4種類の英語表現を例文と共に解説します。中学生の時に習った単語、なかなか覚えられずに苦労したフレーズ、映画やドラマでよく耳にする英語など色々発見があるのではないでしょうか。
気弱・臆病さの表現
日本語の「怖い」という感情を英語で表現するとき最も一般的に用いられるのが「I am afraid of ~」です。これは英語を学んだことのある人なら必ず聞いたことのある表現でしょう。「~を恐れる」という意味で、~の部分に名詞が入ります。【I'm afraid of heights.⇒私は、高いところが怖い】の例文のように使います。
他にafraidの使い方の例文としては【I'm afraid to swim.⇒私は泳ぐのが怖い】があります。「I am afraid to ~」という表現では~に動詞が入ります。
afraidを使う場合に注意したいのが、次のような表現です。【I'm afraid we'll have snow tomorrow.⇒明日は雪かもしれない】この例文ではafraidのあとに主語と動詞があり文章が続いています。実はI am afraidのあとにthatが隠れていて、afraidの意味は「残念だが(that以下の文章)だと思う」という意味になります。
怯えの表現
「I am afraid of ~」と同じ意味で使われることもあるのが「I am scared of ~」です。scaredはおびえた、怖がるという意味の形容詞で【I'm scared of heights.⇒ 私は、高いところが怖い】という風に使います。
【I'm scared.⇒私、怖い】【Are you scared?⇒あなた怖いの?】【Don’t be scared.⇒怖がるな】【He was scared to death.⇒彼はは死ぬほど怖がった】のようによく使われる例文がたくさんあります。怯えを感じてビクビクしているときの「怖い」感じを伝えるのに適した表現で、英語のドラマなどでよくでてきます。
驚愕も加わった表現
「こわい」という感情に驚愕が加わった英語表現としては「frightened」が使われます。【I'm frightened.⇒私、怖い】といった使い方をします。「frightened」は「scared」と違い、何かを見てドキッとするとかギョッとする感じを表現する言葉です。
【They were frightened by the scream.⇒彼らは叫び声に怖がらされた。】【The dog frightened the children away.⇒犬が怖くて子供たちは逃げた。】のように使います。
恐怖に打ちのめされる表現
「こわい」という感情が極限に達して恐怖に打ちのめされる英語の表現にはどんなものがあるでしょうか?「terrified」を使うと「frighten」「scare」よりも強い、ぞっとするようなや極度の怖れ、戦慄ともいえる恐ろしさを表現できます。
例文を挙げると【He was terrified of being left alone in the room.⇒彼は部屋の中に1人残されるのを怖がった】【You were terrified, weren't you?⇒腰が抜けただろう?】【I'm terrified.⇒私は怖くてたまらない】などがあります。
怖いと恐いの使い方に迷ったら「怖い」を使えば安心
この記事ではさまざまな怖れの表現をご紹介してきましたが、「こわい」と書く際に「怖い」と「恐い」のどちらを書くべきか迷ったら、「怖い」と書けば間違いありません。特に公的な文書や入学試験の答案用紙には「恐い」と書かないよう注意しましょう。SNSなど個人的な発信の際には「怖い」でも「恐い」でも大丈夫です。
場面ごとにふさわしい言葉選びができることは、周囲の人と良好なコミュニケーションを保つ上で欠かせないスキルです。この記事以外にも日本語・英語の両方のコミュニケーションスキル向上に役立つ記事が多数ありますので、ぜひご覧ください。