「やるせない」の意味とは?
「やるせない」とは、悲しい、寂しい、つらい、悔しい、など自分では消化できない、感情のやり場がないという意味です。どうしても上手くいかない、どうすればよいか分からないという状況の時にふと口を突いて出る言葉が「やるせない」です。
「やるせない」は「やるせ」という名詞を「ない」と否定した言葉です。「やるせ」は漢字で「遣る瀬」と書き、思いを晴らす方法という意味があります。それを「ない」と否定しているので「思いを晴らす方法がない・打つ手段がない」という意味になります。
「やるせない」の語源
それでは「やるせない」の語源を探ることで意味をさらに詳しく調べてみましょう。「やるせない」のもとは古語の「遣る瀬無い」に語源があります。
「遣る」はもともとは「行かせる」という意味でしたが、のちに転じて「思いを晴らす」という意味を持つようになりました。「瀬」は、川や海の浅くなっているところを意味していますが、転じて場所という意味も持っています。
つまり「遣る瀬無い」は「行かせる」「瀬」が「無い」ということから「思いを晴らす場所が無い」という意味に転じたと言われています。これが「やるせない」の語源の一つです。
語源には、古くから長く使われている言葉ほどいろいろな説や解釈があります。時と時代を経ればそれだけ言葉の使い方も変わってくるので語源もそれにつれて変わってきて、様々な語源ができてしまいます。「やるせない」も古くからある言葉です。語源も一つだけとは限りません。
舟で川を下っている人がいました。この辺で岸につけて舟を降りたいと思っても、なかなか瀬が見つからず舟はどんどん流されてしまいます。このような打つ手がない状況から「遣る瀬(場所)が無い」=「やるせない」に転じたという説もあります。
この他の語源にも「心のやり場がない」=「やる瀬がない」が「やるせない」に転じたとする説など、語源はいくつもありますがこれが正しいという確定的なものがないのが正直なところです。
「やるせない」の類語
「やるせない」と同じような意味を持つ類語にはどのような言葉があるのでしょう。同じような意味を持つ類語といっても、文字や表現が違うからには全く同じというわけではないはずです。
「やるせない」の類語の意味を調べて、似ている点、違っている点などを使い方や例文を参照しながら検証してみます。それでは「やるせない」の主な類語を紹介します。
「佗しい」の意味
「佗しい(わびしい)」は「心を慰めるものがなく寂しく思うさま」という意味です。気持ちを慰めるものがなく、やるせない思いを表現する言葉です。
また「佗しい」には「貧しくてみすぼらしい」「物静かで寂しい」という意味がありますが、この意味に解釈すると「やるせない」とは少しニュアンスが違い類語とは言えなくなってしまいます。
つまり「佗しい」には「やるせない」の類語になる意味と、類語とは少しかけ離れた両方の意味が混在しています。例えば「一人暮らしをしていると時々佗しい気持ちになることがあります」の例文でも「やるせない気持ち」と「物静かで寂しい」という両方の意味に解釈できます。
「せつない」の意味
「せつない」は漢字では「切ない」と書き、切ることができない、心から断ち切ることがでいないほどの感情ということから「やりきれない」「胸が締め付けられるほどの悲しみや苦しみ」という意味で「やるせない」の類語になります。
また「せつない」には「身動きが取れない」「体が苦しい」「どうしようもない」という意味もあり「やるせない」とは微妙に違うところがあります。
例文では「私はお酒が飲めないので、飲み会などで皆んなが楽しそうに飲みながら話しているのを見るとせつない思いがします」「この歌を聴くといつも心がせつなくなる」「映画で二人の別れのシーンで見せた彼女のせつない表情が目に焼き付いて離れない」のように表現します。
「やり切れない」の意味
「やり切れない」は「耐えきれない・我慢できない」という意味で「やるせない」とは少し違うニュアンスの感情を表現する類語です。
この他に「時間切れで、テストの問題を最後までやり切れなかった」のように「物事を最後まですることができない」という意味があり、この意味の場合は類語にはなりません。
類語としての例文は「テレビの悲惨な戦争のシーンにやり切れなくて、思わずチャンネルを変えてしまった」「子供の泣き顔を見ると、やり切れない気持ちになる」「今まで耐えてきた感情が、彼の一言でやり切れなくなり思わず怒鳴ってしまった」のように表現します。
「やり場のない」の意味
「やり場のない」とは、感情が高ぶった時などに「気持ちの持って行き場がない」という意味です。「持って行き場がない」というところが「やるせない」と同じなので類語になります。
「やり場のない怒り」「やり場のない悲しみ」「やり場のない気持ち」のような使い方をします。例文では「やり場のない怒りをこらえるため、強く拳を握りしめていた」「やり場のない悲しみで途方にくれて、次第にあきらめの表情に変わっていった」のように使います。
「やるせない」の使い方
人の感情には「喜怒哀楽(きどあいらく)」という4つの感情があります。「やるせない」という感情は、4つのうちの中2つネガティブな「怒」と「哀」の感情を抱いた時に、その感情のはけ口が見つからず、やり場のない気持ちになった時に使う言葉です。
「怒」には「腹立たしい」「怒る」があります。「哀」には「悲しい」「寂しい」「佗しい」「嘆く」があります。「怒」と「哀」の中間には「悔しい」「つらい」「もどかしい」「歯がゆい」などの感情があります。
これらの感情のやり場がなくなり、どうすれば良いかわからないような心情を表現する言葉が「やるせない」です。ではどのような使い方をすれば良いのでしょう。
「やるせない」は「やるせない思い」「やるせない気持ち」「やるせない表情」「やるせない時」のように感情が現れるシチュエーションやケースによって意味の使い方が変わります。それでは例文をあげて紹介します。
例文①思い・気持ち
「思い」や「気持ち」とは、何らかの外因などにより揺り動かされて心に現れる感情のことです。それでは「やるせない思い」や「やるせない気持ち」という意味を表現する使い方の例文を紹介します。
「災害の後の悲惨な状況を見ると、自然の力の前には人間は何と弱いのかとやるせない気持ちになります」「地球温暖化は科学の進歩のために自然を引き換えにした現象、やるせない思いを抱くのは何故でしょう」などは大きな力の前に打つ手がないと嘆く意味の「やるせない」の使い方です。
「彼から病気の悩みを打ち明けられた時、自分が何もできない歯がゆさと、やるせない思いでつい涙がこぼれてしまいました」「仕事で失敗した時に、やりきれない気持ちでつい笑ってしまいました」の例文は感情をコントロールできない、もどかしいという意味を表した「やるせない」です。
「彼女から別れることを切り出された時に、やるせない気持ちで頭の中が真っ白になり黙って立ち尽くすだけでした」「彼の言動には、腹が立つと同時にやりきれない思いで一杯になり、反発することができなかった」などは感情を抑えるという意味の使い方をした例文です。
例文②表情
感情は表情やしぐさに現れるものです。「やるせない」という気持ちが表情やしぐさに現れる場合の例文を紹介します。
「深い悲しみにおそわれた時に、人はどうしてやるせない表情になるのでしょう」「途方にくれてどうしようもないから、やるせない表情になるのでしょうか」「ふるさとを思い出す時には、やるせない表情になるものです。それは取り戻せない幼少の頃を思い返すからです」
これらの例文は「感情は自分ではどうしようもない」「時の流れは取り戻せない」という半ばあきらめの意味合いで「やるせない」を使っています。
「彼女のやるせない表情や、やるせないしぐさには悲しみだけでなく、哀愁がこもっている」「彼女の時折見せるやるせない表情は、何故か人の心を惹きつける」
「恋愛映画のラストシーンを見た後に、彼女が見せたやるせない表情がたまらなく魅力的で脳裏から離れない」のように「やるせない」は使い方によってはポジティブな意味合いを表現することができます。
「やるせない」は通常ネガティブな感情を表現する場合に使われるのですが、上記のように少し明るいポジティブな使い方ができることを知っておくと便利です。
例文③気分と心
「やるせない気分」は、外因やきっかけがない場合でも「なんとなくやるせない」のように心の変化によって引き起こされることがある感情です。心と気分は常にリンクしています。
心がふさぎこめば気分は暗くなります。心が朗らかになれば気分は明るくなります。それでは「気分と心」という意味合いで使われる「やるせない」の例文を紹介します。
「特に悲しいことや辛いことがないのに、突然やるせない気分になることがあります。それは心が不安定な証拠です」「何も原因がないのに、やるせない気分になり心がふさぎ込むのは、物事をネガティブに考えているからです」これらは心の持ち方で気分が変わるという意味を表した例文です。
「心に抱く感情が大きくなればなるほど、感情のやり場に困りやるせない気分が増大します」「心は常に変化します。心がネガティブになればやるせない気分になります。心がポジティブで明るくなれば朗らかな気分になります。」これは心と気分はリンクしているという意味の例文です。
このように心と気分は常につながっています。「やるせない気分」になるのもならないのも、心の持ちようで変わるという意味です。誰でも「やるせない気分」にはあまりなりたくないのではないでしょうか。そのためには心をポジティブにすることが大切です。
例文④時
「時の流れに身をまかせ」というヒットソングがあります。この歌を聴くと「やるせない」気持ちになるのは何故でしょう。時は川の流れのように、止まることがなく過ぎていきます。過去に戻ることも未来に行くこともできないので、時にはいつも「やるせない」という感情がつきまといます。
少し宗教的になりますが「時」の意味をとことん突き詰めて考えたのが、キリスト教や仏教です。「時」には「無常(むじょう)=常にあらず」という意味があります。「常にあらず」だから「やるせない」のです。時は人の力ではどうしようもなく変えられないので「やるせない」のです。
「やるせない」という人の心を救うために宗教では来世という教えが生まれました。時は無常で止められないけれど、時は無限で繰り返す「輪廻(りんね)」すると解くことで「やるせない」という気持ちを救おうとしています。
「起こしてしまった過ちは取り返しがつかないから、やるせない気持ちになるのです」「あの時彼に一言ごめんなさいと言っておけば、こんな結果にならなかったと今はやるせない気持ちでいっぱいです」などは、時は戻ってこないという意味の例文です。
「やるせない」の英語表現
「やるせない」を英語ではどのように表現するのでしょう。一言で言って難題です。なぜならば英語には「やるせない」に相当する単語がないからです。ではどのように表現するかといえば、その時のシチュエーションや何に対して「やるせない」のかを様々な単語や言い回しで表現します。
英語の表現の一つに「crush」を使う方法があります。「crush」は「砕く」「押しつぶす」という意味です。不思議に思う方もいると思いますが、「やるせない」気持ちは心が砕かれることで引き起こされます。
「He was crushed by the news of the accident」の例文を直訳すると「彼はそのアクシデントのニュースで壊された」になりますが、彼はニュースにショックを受けて「心が砕かれてやるせない気持ち」になったという意味になります。
また英語では「uneasy」で「やるせない」の意味を表現することがあります。「uneasy」は「easy(簡単)」を「un」で否定しているので、「簡単ではない」「心配な」「不安な」という意味です。不安や心配が「やるせない」気持ちを誘発するからです。
使い方としては「uneasy feeling(不安な気持ち)」「uneasy eye(心配そうな目)」「uneasy face(不安な顔)」「uneasy look(心配な様子)」などを前後の言い回しで「やるせない」という意味を英語では表現します。
この他にも英語では「やるせない」の意味を表現する単語や言い回しがたくさんあります。「downhearted(心がおれる)」「miserable(みじめな)」「blue(ブルー)」「dark(暗い)」などなど数え切れません。それは英語には一言で「やるせない」の意味を表す単語がないからです。
日本語はどのような場合でも「やるせない」の意味は変わりませんが、英語では使う場所や前後の流れで同じ単語でも意味が変わってしまいます。前述の「crushed」でも使う場所によっては「押しつぶされる」の意味になり「やるせない」の意味にもなるのです。
このように英語と日本語では意味を表す表現方法が異なっています。これから英語を学ぼうとする人は、この表現方法の違いを頭において意味を直訳しただけでは本当の意味が伝わらないことに注意しましょう。
「やるせない」は「やり場がない」という意味
「やるせない」は、感情や心の思いが大きい時にやり場がなくなり、どうしたら良いかわからなくなる状況のことです。それは表情やしぐさに現れることもあり、ため息をつくように口から言葉になって漏れることもあります。
ここまで「やるせない」の意味や類語、使い方や例文を紹介してきました。また英語表現も合わせて紹介しました。しかしどのような場合でも「やるせない」気持ちのままではいたくありません。
「やるせない」感情を乗り越えるためには、心の持ち方が大切とも解説しました。これまでの記事を参考にして人生の荒波を越える役に立ててください。